とにかく「気になる」アーティスト、フェリックス・ヴァロットン展@ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(以下RA)で開催中のフェリックス・ヴァロットン展にすべりこみで行ってきました。

ヴァロットンが大好きなわたしには本当によい展示だったので、感想を書いておきたいと思います。

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アートには疎いのですが、たまに爆発的に好きになるアーティストがいます。

その一人がヴァロットン。

と言っても、彼の名前を初めて知ったのは、2017年に東京で開かれていた『パリ・グラフィック展』の時だったので、ごく最近のことです。

有名なロートレックなどと一緒に展示されていたヴァロットンの、ユーモアがありながら、どこか不安定な世界がすごく気になって、ずっと心に残っていました。

だから RAで彼の展示があると知って大喜びしたのでした。

行くのはぎりぎりになっちゃったけれど。

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(会場内ではフラッシュがなければ撮影可。

個人が所有する作品で許可が得られなかった3作品だけが例外でした)



今回のRAでの展示は、タイトルもずばり「不穏な画家、ヴァロットン(FélixVallotton; Painter of Disquiet)」。

彼の作品に穏やかならぬものを感じたのは間違っていなかったのねと安心したりして。

東京でヴァロットンを見た時に特に心に残ったのは木版画でしたが、やはり彼はこの時代を代表する木版画を作ったと言われているそう。

彼が活動していたのは、19世紀終わりから20世紀初めにかけてのパリでした。

経済的に発展して華やかでありながら、戦争の影も見えてどこか不安定な空気が漂っていた時代。

そのベルエポックの世界を高度な技術を使って白と黒のシンプルな木版画に切り取ったことが特に評価されているようです。

なんて、解説を付け焼き刃で抜き出しても全然説得力がないと思うので、感想を言うと、とにかく彼の作る白黒の木版画が好きです。

特に、男女2人だけが登場して、ドラマチックな光景が繰り広げられる「親しい仲(Intimités)」というシリーズが好き。

人も背景も単純化されていて見た目はかわいらしいのに、どれも見た目にそぐわない思わせぶりなタイトルがついているんです。

(タイトルの日本語訳が見つからなかったので、わたしがつけています)

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(こちらは展示のカタログより、「親しい仲」シリーズの「美しい針」。

木版画なのになんとも言えない表情を見せている男子にご注目)



たとえば、ソファーで熱く抱擁し合う男女を描いた絵のタイトルが「うそ」。

ハンカチで顔を押さえてテーブルに突っ伏している男性の横で、無表情にそれを見つめる女性、そのタイトルは「勝利」。

左端にいる窓の外を無表情に見る女性、その横に説き伏せるような表情で立つ男性、そして右側は4分の3ぐらいが真っ黒、このタイトルは「金」。

このシリーズではありませんが、ベッドに倒れこんでいる上半身の見えない男女、色っぽいシーンかと思いきや、男性の手にはナイフが握られていて、タイトルは「暗殺」。


なになに? どんな事情があったの? と、考えずにいられないものばかりじゃありませんか?

こういう表現をしたヴァロットンの心のうちをなぞってみるのも楽しいのです。

木版画には他のパターンもあって、デパートでにぎやかに買い物する人たちや花火に魅了されている人たちがいきいきと描かれていたり、入浴とか楽器の演奏という日常生活がユーモラスに描かれていたりもします。

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ただ、「親しい仲」シリーズを見ちゃったからなのか、版画が白黒のせいなのか、何を見てもどことなく不穏な雰囲気が漂っている気がして、この絵の裏に何かドラマがあるのでは? とつい勘ぐってじっと見てしまう。

時代の空気もあるのでしょうか、とにかく、気になるんです。

今回は油絵もずいぶん展示されていて、構図のおもしろいものが気になりました。

たとえば、絵の真ん中あたりに女性が立っていて、その手前にと向こう側に開かれたドアがいくつか描かれている作品。

見ていると、自分の目が最初は女性へ、それから奥のドア、ドア周りの部屋の様子、そして手前のドアに戻ってくる、という自然に移動するのがわかるんです。

平面の絵に深い奥行きを感じて、なんだか不思議な感覚。


おもしろい絵の前に立つと、ヴァロットンがどんな思いで絵を描いたのかを想像して、つい「ふふふ」と微笑んでしまいました。

いたずら心なのか、サービス精神なのか、それとも視線を一か所に集めないという技法的なことなのか。

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(RAは常設展も建物もとても美しい!)



他にも、美しい月や池の風景なのに、なんだか何かが出てきそうな不気味な雰囲気を感じる作品もあって、やっぱりヴァロットン、気になる!


もっと専門的な言葉で的確に表現できるといいのですがとにかく気になるヴァロットン作品のよさが少しでも伝わっていると嬉しいです。


気になるついでに、帰りがけ、この展示のカタログを買ってしまいました。

もう終わりが近づいているからか、半額以下になっていたんですもの。

展示のカタログを買うなんて、何十年ぶりのこと。

こんなに気になるヴァロットン、これからも追いかけていきたいと思います。


RAでのヴァロットンの展示は今週929日(日)までです。

ロンドン方面でご興味のある方、ぜひ。

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Commented by 赤毛のアン at 2019-09-29 00:48 x
ロンスマさん こんにちは♪

フェリックス・ヴァロットンのお話興味深く拝見しました。初めて名前を聞きましたが、正直言ってとても興味を惹かれました。特に「親しい仲」シリーズ、見てみた~い!
日本ではきっと見ることはなかなか出来ないと思いますので、ネットで色々と検索して彼の作品を見てみましょう。機会があればイギリスに行った時にどこかで見れればいいなと思います。

また一つ好きなものが増えました。
”気になる”作家、ヴァロットンを紹介してくださってありがとうございました。


赤毛のアン

Commented by londonsmile at 2019-09-30 18:21
*赤毛のアンさん*
こんにちは! ヴァロットンに興味を持ってくださって嬉しいです! 日本では一昨年行ったばかりなので、もしかしたらしばらくはないかもしれませんね。「親しい仲(私の勝手な翻訳ですが!)」のシリーズはふだんはジュネーヴにあるみたいです。機会があったらご覧になってみてくださいね!
by londonsmile | 2019-09-25 19:55 | ロンドン・エンターテインメント | Trackback | Comments(2)

londonsmile、ロンスマことラッシャー貴子です。翻訳をしています。元気な英国人夫とのロンドン生活も早いもので17年目。20歳の時に好きになったイギリスが今も大好き。英国内旅行や日々のいろいろを綴っています。お仕事の依頼や写真掲載のご連絡は非公開コメントでお願いします。無断掲載はご遠慮ください。


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