大英図書館のInternational Translation Day 2017に行ってきました

今月初めのことですが、大英図書館で開かれたInternational Translation Day 2017に参加してきました。

翻訳者や翻訳に関わる人たちが集まって経験を話したり、意見を交換したり、一緒に考えたりするイベントです。


主催は大英図書館ではなくて、English PENやFree Wordなどの文芸団体で、翻訳の分野としては全体にぐっと文芸寄り。

しかも他の言語から英語への翻訳をしている人が主な対象なので、これを日本語で読んでいる方にはあまり関係がないかもしれませんし、ブログのネタとしては誰にでも喜んでいただけるものではないかもしれませんが、イギリスでこういうイベントがあったということで、私なりの感想をレポートしますね。


私自身も日本語への翻訳が多いのですが、和訳に共通する点も違う点もあって大いに刺激を受けたし、翻訳を大きな目で見る良い機会になりました。

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(会場になった大英図書館。
数年前に大英博物館から一部の展示物が移され、マグナカルタやモーツァルトやビートルズの原譜などを見るならこちら♪)

丸1日たっぷりのイベントは、朝に全体で集まってパネルディスカッション、午前と午後の各セッションの後には、また全体でのワークショップがあって、最後はお酒を軽く飲みながらの交流、という流れでした。

参加者のお顔立ちを見回すと、やはりヨーロッパ系(英国人含む)が大半で、そこに世界中のいろいろなバックグラウンドを持った人が集まったという感じ。

もちろん見た目と話す言語がまったく違うこともあるので、あくまで印象です。受付した時の名札に日本人のお名前もで何人かお見かけしましたよ。

規模ははっきりわかりませんが、全体会場が255名収容ということなので、それにスタッフの方を加えて300人ぐらいだったのでしょうか。

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最初の全体パネルディスカッションでは、ますます多様化する社会での翻訳とその未来について、翻訳者や研究者の方がお話しされました。

移民の多い英国やヨーロッパの国では、言語や文化を超えてわかりあうことが日本よりもずっと深刻な問題ということを改めて感じ、基本に戻って、言葉について、わかりあうことについて考えさせられました。


その後のセッションは、午前午後とも4つの選択肢から選べたのですが、その内容は児童文学とYA、詩の翻訳、ジェンダーや人権を考えるもの、大英図書館の専属翻訳者の方のお話、アラビア語の翻訳に触れるものなど、バラエティーに富んでいました。

去年のマンブッカー・インターナショナル賞を受賞した韓国のハン・ガンさんの『The Vegetarian(邦題「菜食主義者」)』を英訳したデボラ・スミスさんもパネリストで参加していましたよ。

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(小部屋には文豪の名前が付いています。
文学好きの方にはたまらないのでは?笑)

午前の部では、私は文芸翻訳者ヘレン・スティーブンソンさんのお話を聞きました。育った環境から翻訳を始めた経緯、これまでの仕事、翻訳で心がけていること、毎日の日課から支払いのことまで本当に惜しみなく話してくれて感激。

直接の同僚や先輩のいないフリーの身には、経験に基づいたお話やアドバイスは本当にありがたいのです。

翻訳をしながらピアノも教えているヘレンさん、音楽の勉強が翻訳にとても役立っていると感じるそうです。

原書を読み込んでいると登場人物の声が聞こえてくるんですって。アートですね! 

そういえば日本の翻訳関係の方にも音楽に詳しい方が多いので、音楽と翻訳はやはり何か関係があるのかもしれません(そういう研究、あるのでしょうか?)。


その後は、用意されたサンドイッチで立食のランチタイム。パネリストや他の参加者と気軽に話せる機会でもあるのですが、昼休みにも詩の翻訳ワークショップ、翻訳研究の展示、専属翻訳者が案内する大英図書館ツアーなどのミニセッションが用意されていたので、急いで食べてどんどん参加という人も多かったようです。 

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私は休憩時間には、イーストアングリア大学(ノーベル文学賞をとって話題のカズオ・イシグロさんの出身校!)で翻訳を研究されている明石元子さんの展示にうかがいました。

明石さんのご専門はひとことで言うと翻訳の透明性。

たとえば大物作家の村上春樹さんが手がける翻訳は、まるでご自身の作品であるかのようにハルキ色が濃いけれども、彼は極端な例であって、一般に翻訳をする場合にはどこまで訳者の色を出すべきか、あるいは出すべきではないのか、ということをさまざまな角度から研究していらっしゃる、というお話をうかがいました。

世界各国の背景を持つ人たちを前にご自身の研究を説明される明石さん、頼もしかったです。

前からいろいろ教えていただいてお世話になっているのですが、ものすごくチャーミングな方なんですよ!

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(明石さんの展示のポスター。

どんどん宣伝していいよと言われたので載せちゃいます!笑)


午後にはまたパネルディスカッションを選択しました。

パネリストは文芸翻訳者、大英図書館の専属翻訳者、主に映像翻訳を通じて子どもが楽しく外国語を勉強できるシステムを広めている方たち。

字幕を付けて外国語を学ぶというのは初めて聞きましたが、生まれた時からタブレットやYoutubeになじんでいるビジュアル世代の子どもにはピンときやすいようです。

大英図書館という場での翻訳の仕事もおもしろそうだなと思いました。

大英図書館が専属翻訳者を採用したのは今年が初めてで、現在、翻訳に関連した企画が進んでいるそうなので、またイベントに参加してみたいと思います。

翻訳の範囲や可能性について視野が広がり、夢も広がって、明るい気持ちになったセッションでした。


そして最後はまた全体で集まってのワークショップ。

参加者がその場で作ったチームごとにセリフを英訳して、実際に即興で演じてもらうというもので、東ロンドン(若者に人気のエリア)で翻訳ものを専門に上演している劇団の俳優さんたちが舞台の上で楽しく盛り上げてくれました。

初めて会う人と一緒にその場で英訳と言うだけで緊張するのに、話の設定や登場人物の関係や年齢、状況などを手早く想像しながらの翻訳は難しかった! 

同時に、ふだん使わない部分の頭を使うことになって、とても新鮮でもありました。

発表されたセリフを聞くと、まったく同じ内容でも全然違う表現になっていたり、自主的に手話付きで訳したチームがあったり、と、発想がさまざま。

刺激を受けて、少しは頭が柔らかくなった(ような)気がします。

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(大英図書館の入り口付近。
誰でも使える勉強スペースは、いつでも大混雑。
登録すれば、書架にしまってある書籍も閲覧できます)

そして最後は交流タイム。名刺を出し合ってご挨拶することもなく(笑)、普通のパーティーのように、目があったら誰とでもおしゃべりできるというとても気軽な雰囲気でした。

たまたま話した方に貴重なアドバイスをいただいてありがたかったのですが、後で実はかなり有名な方だと教えてもらってドキドキ。笑 

自分の無知に焦りましたが、そのくらいみなさんが気軽におしゃべりをしていて、後輩を応援するとても良い雰囲気があふれていたということで!


イベント全体を通じてやはりヨーロッパだなあと感じたのは多言語の環境です。

違う言葉を話す国が地続きで隣り合っているヨーロッパでは、2、3ヶ国語を話す人がまったく珍しくありませんが、そういう人が意外と語学とはまったく関係のない仕事をしていたりします。

こうした環境の中で翻訳や通訳を仕事に選ぶ人は、やはり語学に興味があったり、特別に多言語を背景に育った人が多いよう。

今回お話を聞いた方の中にも5ヶ国語、6ヶ国語を話すという人が多くて驚きました。

そして多言語環境だからこそ、語学を仕事にするのは競争がとても激しいようです。


これまではイギリスにいながら英訳のことにまで頭が回っていなかったので、学ぶことが本当に多かった1日でした。

どの言語であっても、言葉や言語を超えてわかりあうためにさまざまな努力や試みをしているという点ではやはり同じ。

いろいろな角度から翻訳の話を聞くうち、目の前のことしか見えていなかった私も、翻訳をもっと大きな意味で捉える感覚を味わうことができ、お互いにサポートし合い、他の人に伝えるという考えも見えてきて、視野が少し広がりました。

またこういうイベントを見つけて、ぜひ参加してみたいと思います。


イベントの詳細はこちらからどうぞ


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(新しい10ポンド札になって話題のジェーン・オースティンの手書きの原稿も大英図書館で見られます♪)


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by londonsmile | 2017-10-14 17:55 | 翻訳のこと | Trackback | Comments(0)

londonsmile、ロンスマことラッシャー貴子です。翻訳をしています。元気な英国人夫とのロンドン生活も早いもので12年目。20歳の時に好きになったイギリスが今も大好き。英国内旅行や日々のいろいろを綴っています。お仕事の依頼やご連絡は、非公開コメントでお願いします。


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