北イングランドの英国ガーデンをめぐる旅その17 カースル・ハワードの礼拝堂はウィリアム・モリス作!(ヨークシャー州)

前回ご紹介したヨークシャー州のカースル・ハワード(Castle Howard)
300年以上前に建てられた壮麗な建物でありながら、実際にハワード家のご家族がずっと住んでいるこのお屋敷は、どこか家庭的な香りがしたとお話ししました。

今日はお屋敷の後編として、あのウィリアム・モリスが作った美しい礼拝堂を中心にご紹介しますね。

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(礼拝堂の美しいステンドグラス♪)

でもその前に!
前回、ご紹介しきれなかった場所をもう少しだけご紹介させてください。

まずはロング・ギャラリー(広廊下)。
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ロング・ギャラリーは、その名の通り約50メートルある長い広間です。
ぎっしりと豪華な美術品が飾られていますが、昔の人たちは、お天気の悪い日には軽い運動をするのにこの廊下を使ったそう。
といっても、主にこの細長い場所を行ったり来たりして歩く程度のようですが、大きなお屋敷ではよくあることみたいです。
映画を見ていると、たまに家の中でやたらに歩き回っている人がいるので、ちょっと注意して観てみてくださいね。

ガイドさんは説明をしながら淡々と歩いて行きましたが、置かれている絵画や装飾品、タペストリーのひとつひとつが本当に立派で、大興奮でした。

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以前、初めてイギリスのお屋敷に行った時、この豪華なタペストリー(織物)というものを見て、織物好きな私は単純にワクワクしました。
でも同時にちょっと不思議にも思ったのです。
だってなんだか、ただ無造作に壁に掛けてあるように見えたので!

その後、タペストリーを掛けるのは、もちろん装飾という意味もあるものの、暖房が現代ほど効果的でなかった時代に、とても冷たくなる石の壁を覆って保温していたという実用的な理由を聞いて納得。
今では、広いお部屋にタペストリーが掛かっていると、「お、あるある、昔は寒かったのね」と、なんだか別の喜びが込み上げてきます。

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本棚も見事でした。
ここにあった本はみんな革装でしたよ。
ご家族に伝わる本なんでしょうね。

立派な装飾品の中に見つけたかわいらしいもの。

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小さなキャビネットの中に装飾用と思われるやはり小さな陶器が入っていて、かわいらしい上に、ちゃんと美しい。
これが何なのか、聞きそびれてしまったのがとても悔やまれます。
もしかしておままごとのセットだったりしたのかな。

ちなみにこの小さなキャビネットの形、17世紀から18世紀に流行したセダン・チェアーというものだと思います。
中に人を乗せ、前と後ろに人が立って、渡された棒を両手でそれぞれ持って移動するというもので、日本でいう「駕籠(かご)」ですね。
(そして今思うと、これはロング・ギャラリーの手前にあったかもしれません)

ロングギャラリーを歩いている時に、ガイドさんが「当時はお金に糸目はつけなかったんですよ」とぽろっとおっしゃったのがとても印象的でした。
そうでしょうとも、こんなに豪華なお屋敷ならば!
そして、その贅を尽くした美しいものを21世紀の今、こうして見せてもらえる幸せを感じずにはいられませんでした。

ところで、この広間を歩いていると、どこからともなく良い香りがしました。
とても優しくてちょっとスモーキーな香りだったので、お香かしら、と思ってうかがってみると、おそらく床を磨く時の艶出しの香りではないかとのこと。
どんな良いものを使ってるんだろう? わが家で使っているのはもっと人工的な匂いなんだけど。笑

そんな柔らかい香りの中、美しい調度品を見ながら磨き抜かれた床をコツコツ歩いて、一瞬だけ、貴族の一員になったような豊かな気分に浸ることができました。

カースル・ハワードでは、映画やドラマの撮影をした時の展示があると前回お話ししましたが、その他に、戦争に関する展示もあるのです。
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(ドイツ語の絵本。絵は普通でも、内容がちょっと怖くなっていたりします)

1815年から1944年までの間に起きた何回かの戦争で、ハワード家からも戦死した方が5人出たそうです。
この展示では、戦争中のハワード家の人たちの生活や戦地に赴いたご家族とのやりとりの記録として、当時の手紙、衣服、本や持ち物などを見ることができます。
2015年にはHudson's Heritage Awardsという賞も獲得しているこの展示、戦地や爆撃の写真などはなく、普通の人々と戦争の関係が淡々とあらわされていてとても興味深かったです。

さて、ではいよいよお待ちかねの礼拝堂に参りましょう。

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(写真提供:Castle Howard © Tony Bartholomew)


じゃーん! 美しいでしょう?

ここは当初ダイニングルームとして設計されていた場所でしたが、1870年代の改装で床を掘り下げるなどの大規模な工事を行って、礼拝堂にしたそうです。

1870年代といえばイギリスではビクトリア時代、礼拝堂の装飾にも当時大流行だったラファエル前派のスタイルが用いられています。
ラファエル前派の特徴をとても簡単に言うと、「明暗が弱いものの色は鮮やかで、描写が細かい」だそうで、例えば絵画ではミレーの『オフィーリア』が有名ですね。
(どんな絵か、ご興味ある方は、このリンクからご覧ください)

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この礼拝堂は、全般的にビクトリア時代のアーツ&クラフツ運動で知られるモリス商会が手がけました。
モリス商会の代表はもちろん、日本でも大人気のモダンデザインの父、ウィリアム・モリス
彼は「有用とも美しいとも思えないものを家のなかにおいてはいけない」と言ったそうですね。
耳が痛い!笑

言われてみると、この壁に描かれた天使や、特に果物の木や葉、とてもウィリアム・モリスっぽいですね。
すごく厚みがあるように見えたので、「織物かなにかですか?」とガイドさんに聞いてしまったのですが、壁に描かれた絵だそうです。
この壁画はチャールズ・ケンプ、最初の写真のステンドグラスはエドワード・バーン・ジョーンズの作品です。

第9代カーライル卿であったジョージ・ハワードは画家で、ウィリアム・モリスと非常に親しい友人であったことから、モリス商会がこのカースル・ハワードの改装を手がけることになったそうです。

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このついたてもウィリアム・モリスっぽい!
人物も背景はなんと刺繍なのです。
刺繍は布と糸のぬくもりがあっていいですよね。
私がわが家にも欲しいといちばん思ったのはこれでした。笑

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この礼拝堂、それほど大きなスペースではないのですが、とにかく天井が高くて圧倒されます。

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そして天井の装飾も美しい。

さらにその向こう側の天井も見て、見て♪

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ウィリアム・モリス好きにはたまりませんね。
私も大好きなので、大興奮でした。
ちょっと興奮しすぎだったかもしれませんが、ガイドさんが嬉しそうだったので良かったことにしよう。笑

高い天井に美しいものが描かれているのを見上げていると、なんとなく「天」を見上げているようで、クリスチャンでない私も「神さま」のことをなんとなく思ったりしました。
信者の方はどう感じるのでしょう。

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礼拝堂には近年LEDライトを設置したので、繊細な装飾がよりはっきりと見られるようになったそう。
カースル・ハワードのこのページに行くと、礼拝堂のより美しい写真がお楽しみになれます。
プロの写真で、美しい装飾をじっくりご覧くださいね。

美しいもの、しかも大好きな種類の美しいものを見せてもらって幸せなひと時でした。
先ほども言ったように、この礼拝堂は決して広くはないのですが、手間と時間をかけて丁寧に作られた装飾には命がふきこまれているのか、なんとなくものの気配を感じたのです。
私には霊感はまったくないし、こんな風に感じたのは生まれて初めてだったので、びっくり。
でも、怖いという感覚ではなく、どちらかというと幸せな気分。
礼拝堂という場所にぴったりの空気だった気がします。私の印象ですが!

お屋敷をじっくり見せてもらっている間、曇り空のまま雨は降っていないようなので、お庭に出ることにしました。
次回は、やはり温もりを感じたカースル・ハワードのお庭をご紹介します。
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(お庭に出る前にお手洗いに行った時の地下道。
こんなところまで気が配られていて良い雰囲気でした。笑)


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Commented by 素敵な写真ばかりですね。 at 2017-05-21 06:06 x
本当に素晴らしいですね。写真を撮るのが本当にお上手ですね。ここはうちからそう遠くないので、このブログを参考にさせていただきながら、今度行ってみます!ありがとうございました。
Commented by londonsmile at 2017-05-21 08:01
*ちょっと優雅なイギリス田舎暮らしさん*
本当にすてきなところでした。お近くでしたら、ぜひ!
写真もありがとうございます。被写体がいいので、きっとちょっと優雅なイギリス田舎暮らしさんもきっと良い写真が撮れますよ!
by londonsmile | 2017-05-18 17:37 | Visit Britain | Trackback | Comments(2)

londonsmile、ロンスマことラッシャー貴子です。翻訳をしています。元気な英国人夫とのロンドン生活も早いもので17年目。20歳の時に好きになったイギリスが今も大好き。英国内旅行や日々のいろいろを綴っています。お仕事の依頼や写真掲載のご連絡は非公開コメントでお願いします。無断掲載はご遠慮ください。


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