豪華な日本人作家が大集合した大英図書館のイベントJAPAN NOW

週末、大英図書館のJAPAN NOWというイベントに行ってきました。

実は最初にイベントの告知を見た時、にわかに信じられなかったのです。
というのも、多和田葉子、川上弘美、柴崎友香、小野正嗣、松田青子(以下も敬称略します)という豪華な作家陣に加え、日本研究で有名なアレックス・カー、村上春樹の英訳もしているアルフレッド・バーンバウムの名前がずらりと書かれていたからです。
芥川賞作家が4人もいるんですよ。
「この人たちがみんなロンドンに来るの? いっぺんに?」と疑ってしまっても不思議ではないでしょう?

でももちろん、この名前を見て行かない訳には行きません。
どうなるんだろうとドキドキしながら即日申し込んだのでした。

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(大英図書館の地下鉄の最寄り駅はキングスクロス・セントパンクラス駅。
キングに因んでか、ホームには王冠のデザインのタイルが貼ってあることに今回初めて気付きました

当日行ってみると、告知の通り、日本の豪華作家陣や映画監督、日本文学を英訳している著名な翻訳家などが集まる夢のようなイベントでした。
外国での開催なのにすごいな、と思ったのですが、よく考えてみると、外国での開催だからかえってゴージャスなことになっていたのかもしれないし、つい最近発売になった英訳本もあるようなので、そのプロモーションも兼ねているのかもしれません。

講演の方は、多和田葉子と映画監督の安藤桃子が「日本の外からの影響」、川上弘美と柴崎友香が「日本のフィクション」、小野正嗣と松田青子が「日本のフィクションの翻訳」、アレックス・カーと英国育ちの日本人建築家シマザキ・タケロウが「古民家の再生」というテーマで、イギリス人モデレーターが話を進めながら、それぞれ1時間程度ずつのセッションをする形式でした。
翻訳のセッションには、上述のアルフレッド・バーンバウムと、山崎ナオコーラや柴崎友香の英訳をしているポリー・バートンも参加して、話をさらに膨らませてくれました。

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大英図書館での会場は、本館とは別棟のノレッジ・センター(Knowledge Centre)。
大きなレクチャールームのあるモダンな建物ですが、ブロンテ、ディケンズ、エリオットという英文学の大御所の名前がついた部屋もあり、ますます気分が盛り上がりました。

当日集まるのは日本人が多いのかと思いきや、イギリス人、あるいは少なくとも日本人には見えない人が8割強でした。
世界中で大人気のハルキ・ムラカミ以外にも、日本文学に興味のある方はずいぶんいるんですね。
年齢層としては、ご趣味か研究系かと思われる年配の方と、学生さんらしき若い人が多かったです。
みなさん、とても熱心にメモを取っていて、メモ魔の私もびっくり。
熱気ムンムンの客席でした。

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まず最初に、この日登壇されたほとんどの作家さんが普通に英語で話していらしたことに驚きました。
英語ができないだろうと思っていたわけではないのですが、あまりに流暢で自然だったので、単純に驚いたのです。
お話を聴いていて、留学経験のある方や翻訳もされている方がいるとわかり、納得。
さすが言葉の専門家、こういうところにもセンスの良さが出るんですね。

中でもドイツ在住の多和田葉子は、まるで英語圏で生まれ育ったかのように自然に話していて、その存在感に圧倒されました。
フランスに留学していたという小野正嗣は、たまにフランス語が混じってしまって慌てて直すという場面が何度かあり、どこか愛嬌のある様子がかわいらしかったです。

外国での集まりということもあってか、各作家の作品の紹介にも重点を置いていたようで、ほぼ全員が作品の朗読をしてくれました。
ご本人が日本語で朗読した後、通訳さんや英訳者の方が英語版を読むという形式。
日本語の原文と英訳をその場で比べられるのも、私にとっては貴重な機会でした。

朗読でとりわけ受けていたのが松田青子の『もうすぐ結婚する女』(『スタッキング可能』収録の短編)。
淡々と鋭いツッコミを入れているのにどこかユーモラスに話が流れるので、日本語朗読の時点で私もくすくすしていたのですが、ステージ上の小野正嗣は体をのけぞらせて声をあげて爆笑。英語版を読み始めても爆笑。
飾らないお人柄に、すっかりファンになってしまいました。

受けていたのは小野正嗣だけではありません。
『もうすぐ結婚する女』の英訳版の朗読が始まると、客席のあちこちからも笑いが漏れていました。
アンガス・ターヴィルの英訳がすばらしいこともあり、この小説のおかしみがロンドンの読者にも伝わったようです。
笑いって個人差もあるけれど、文化を問わない面もありますよね。

ちなみに松田青子は、登壇前にロビーを歩いている時から、ただ者とは思えないオーラを放っていました。とてもきれいな方です。
芥川賞受賞の時の印象とはずいぶん違って思えた川上弘美も、すてきな貫禄がついたとはいえ、誠実そうな魅力的な方でした。

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(休憩中のロビーは、この右側にあるカウンターでお茶やコーヒーを買う人や、販売中の英訳本を吟味する人で大混雑。
サイン会もあったせいか、本を買うのは長蛇の列になっていました。
ちなみに、こんな混雑の中を淡々と多和田葉子が歩いていたりしたのでした。すごすぎる!)

この日の話は、それぞれの作家の作品に関する話に加え、日本の「私小説」というジャンル、日本人のコミュニケーション、コミュニティーから外れた人を描くということ、性別をどれだけ意識するか、ディストピア小説などなどにおよびました。
個人的には、日本を離れた時に感じた日本の影響や、日本人の無常観という話が自分にも特に通じるものを感じて、興味深かったです。

こういうイベントでは、質疑応答の時間に、ここぞとばかりにほぼ自己主張のような発言をする人がよくいるものですが、この現象は万国共通なのか、それともたまたまだったのか、この日もそういうナゾの質問(あるいは発言)をした人がちらほら。笑
面白かったのは壇上の人たちの対応で、こういう場合、日本だったらもう少し戸惑いを上手に隠すんじゃないかなと思うところ、この日はモデレーターも率先して明らかに困った顔をしていたのです。
これがイギリス流なのかどうかはわかりませんが、素直な反応がなんだかおかしくなってしまい、変な質問をした人への怒りや戸惑いよりも、その場の面白い雰囲気を楽しむことに自然に焦点が移って、イライラせずに済みんでしまいました。
なんでも笑いに変える感じ、やっぱりこれはイギリス流の対応だったのかもしれません。

トークの後には、安藤桃子監督の映画『0.5ミリ』の上映もあったのですが、夜は先約があったので、私はここで会場を後にしました。
セッション中に予告編を観たのですが、不思議な設定ながら、ぐっと心にしみたひと言があったのです。
ネタバレ防止のために言わないことにしますが、短い言葉なのに、その場で泣き出しそうになる程のインパクトが私にはあったので、機会があったらこの映画も是非観てみたいです。

この日は豪華な作家さんにお会いできただけで楽しかったのですが、内容も非常に濃くて有意義でした。
一つだけ、もっと長い時間、話を聴いていたかったー!
お一人で講演されても聴き応えのありそうな方々ばかりなので、2人で1時間ずつという時間は短かくて、あっという間に時間切だったのでした。
実はランチ休憩が45分という短さだったので、主催者の方もかなりご苦労されたのだと思うのですが、せっかくの機会なのにもったいないな、とつい思ったのでした。
それも日本人だから感じることでしょうか。

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(販売していた本の一部。
この時期に発売になったものもあったようですが、本当に飛ぶように売れていました!)

今回お会いできた作家さんの作品は実はほとんど読んでいないのですが、お人柄を垣間見てから読書を始めるというスタイルも悪くないのでは、と勝手に前向きに捉えています。
というか、皆さん、本当に魅力的な方が多くて、どんなものを書くのかが気になり、作品を読まずにいられません!
今年は読書を増しやしたいと思っていたし、調べてみたらキンドルでもほとんどの作品が手に入るようなので、どんどん読んでみたいと思います。
(宣言しちゃって、自分にプレッシャーをかけます!笑)

おまけとして、この日は他に嬉しいことが2つもあったのです。
ひとつは、通訳を担当していたのが、イギリスでの通訳・翻訳者の集まりでご一緒している方だったこと。
聡明だなあと思っていて、通訳が上手と聞いていたのですが、噂どおりすばらしいお仕事でした。
こんな方と知り合いになれて幸せ。

そしてもうひとつは、しばらく連絡が途絶えてしまっていた方に会場でばったりお会いできたこと。しかも2人も!
そのうち1人は日本とは特に関係のない、歌のクラスで知り合ったイギリス人なので、勝手にこの機会にますますご縁を感じて、やっぱり読むぞー! と張り切っています。

作家の皆さんは、しばらく英国内の大学などで講演されるようですが、多和田葉子、安藤桃子、アレックス・カーのお3人は、2月28日(火)午後10時(日本時間3月1日午前7時)からのBBCラジオ3に出演されます。
英国にお住まいでご興味ある方は、ぜひ! リンクはこちらです。
放送後はiPlayer(ウェブ版再放送)で聴けるので、放送日が過ぎたらリンクを貼りますね。
(追記:この番組へのリンクはこちらです)

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Commented by Pflanzen at 2017-03-02 00:02 x
こんにちは。なんて羨ましい!私はドイツ在住なのですが、このイベントのこと知っていたら飛行機で飛んでいきたかったです。川上弘美さんの本は最近の本を除いてほとんど全部読んでます。ほんわかしてるかちょっと恐いかでとても面白かったです。多和田葉子さんの朗読会も昔ドイツで行ったことがあります。今はあまり朗読会をされてないような。。(調査不足かもしれませんが)。またロンドンのよいイベントの報告待ってます~☺
Commented by londonsmile at 2017-03-02 05:42
*Pflanzenさん*
こんにちは。本当に夢のようなイベントで驚きました。実際に会場に行くまで信じられなかったので、喜びもひとしおでした。
Pflanzenさんは川上弘美さんがお好きなんですね。私は実は読んだことがないのですが、本当に魅力的な方で、是非是非読んでみようと思っています。
この日は朗読会というか、皆さんの作品を少しずつ紹介するという感じだったので、大人数集まったからこその朗読だったかもしれませんね。多和田葉子さんもご多忙でしょうし、本当に貴重な機会でした♪
Commented at 2017-10-16 21:38 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by londonsmile at 2017-10-17 01:47
*鍵コメ2017-10-16 21:38さん*
いつも見てくださってありがとうございます。
ロンドンではお芝居をよくご覧になるんですね。住んでしまうと意外と行かないものなので、お話に刺激を受けました。ありがとうございます!
このイベントは本当にびっくりで、こんな太っ腹な企画はロンドンで初めて聞きました。ただ英国の作家さんのイベントはもっと頻繁にあるでしょうし、これからはどんどん出かけていこうと思っていますので、またレポートしますね。
漫画翻訳、残念ながら私はあまりわからないのです。ただ、こちらでも日本の漫画が英訳されたものがとても増えているとは感じていて、こちらで日本語を習い始めた若い人に聞くと、かなりの確率で『ワンピース』を読んだ、って言うんですよー。ちょっとアンテナ張ってみて、何かわかったら、またお知らせしますね。コメントありがとうございました。
by londonsmile | 2017-02-28 11:26 | 翻訳のこと | Trackback | Comments(4)

londonsmile、ロンスマことラッシャー貴子です。翻訳をしています。元気な英国人夫とのロンドン生活も早いもので17年目。20歳の時に好きになったイギリスが今も大好き。英国内旅行や日々のいろいろを綴っています。お仕事の依頼や写真掲載のご連絡は非公開コメントでお願いします。無断掲載はご遠慮ください。


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