国民投票は難しい、そしてKeep Calm and Carry On

(English follows)

英国がEU離脱を決めたことは本当にあちこちで言われているので、素人の私がブログにわざわざ書くことはないのですが、やっぱりどうしても考えてしまうんですよねー。
なんだかんだ言って残留するとなんとなーく思っていたナイーブなロンドン暮らしの私としては、なかなかショックから立ち直れなかったし、周りの反応も同じような感じ。

実はこのブログのアクセスも国民投票の結果が出てから急激に上がっていて、検索ワードを見ると「イギリス」「イギリス在住」「ロンドン」なんていう真面目なものが多く(普段は「アフタヌーンティー」とか「アガサクリスティー」など)、日本あるいは海外在住の日本人のの皆さんにも関心が高いことなんだなあと感じます。
そして、だからこそ、適当なことを書けないなあとも。

専門的なことは書けませんが、ロンドンに住んでいて私が感じたこと、話題に出ていることなどをお伝えしていけたらいいなと思っています。

国民投票は難しい、そしてKeep Calm and Carry On_e0114020_06170354.jpg

衝撃的な離脱が決まった翌日、土曜日の新聞。
キャメロン首相が辞任演説をする時の写真ですね。
見出しは「離脱で国が大きく揺れる」となっています。

一緒に写っているのは、インディーが新聞と一緒に買ってきてくれたニコニコ顔のハチさん。
ニュースにショックを受けて、機嫌悪かったのかな、私。反省。笑
私は日本国籍を残していて、この国では投票することができないので、自分の無力を思い知り、なんだか気分が暗くなったのでした。
私の1票で決着がつくわけではないのですが。笑

ただ今回の国民投票で、個人が直接投票するというのはとても難しいことだなと痛感しました。
どちらの言い分も、それぞれに頷けるものがあり、一長一短。
だからこそ投票することになるのですが、素人が決めるには問題が多過ぎ、話が複雑過ぎる気がするのです。

例えば、EUからくる人はビザなしで働けるため、人が大量に引っ越してきて仕事に就いたり、お医者さんや学校がやたら混雑したりするし、イギリスにはいないタイプの物乞いやスリも来たりするしで、自分の生活が脅かされる気がする。
EUの統一した規則で、曲がったキュウリを売ってはいけないと言われたり、(イギリスではマイルやインチが主流なのに)ものの単位をメートル法に統一しなければいけないと言われたりして、EUにいちいち指図・干渉されている気がする。
そんな不便なEUを離脱すれば、EUに払っていた莫大な金額を資金不足の国内医療に回せるではないか。(実際にはそんなに単純ではないようです)

その一方で、これまでEUの一部として市場を開拓してきたので、EU国の製品が安く簡単に手に入ったが、離脱したら輸出入が制限されたり、価格が変わったりする。英国では野菜や果物の生産が限られているので、食生活に直接影響が出るかも。
国内に投資していた欧州企業その他の外国企業もおそらく英国を離れることになり、英国経済は縮小しかねないし、世界的にも大きな影響を与える。
EUは英国でも農業に多額を投資しているけれど、EUを離れれば当然それはなくなり、農家は生活に困りかねない。その資金を英国政府が支払えるのか? 
すでにEUからやってきて働き、住んでいる人たちが抜けても、英国は機能していくのか?その分、イギリス人に雇用が回ってくると言うけれど、移民の人たちがやっているお掃除や力仕事に喜んでつくイギリス人がどれくらいいるのか?

これらはほんの一部で、それだけでもこんなに複雑に問題が絡み合っているのに、問題の全体を見て判断するのは一般の市民には難しいのではないでしょうか?
もちろん投票前にはさまざまな情報提供や議論が行われましたが、果たしてその情報や意見は絶対に正しいのかも疑問です。
政治家が自分や党のために情報を利用している可能性もあるからです。

それに公開された情報・見解のほんの一部だけを聞いて判断・投票してしまう人もいるでしょう。
今回も感情的になって軽い気持ちで離脱に投票し今になって後悔している、と告白する人がテレビで取り上げられたりしています。
あるいは、まさか離脱になると思わなかったから思い切って離脱に投票した、という意味不明な人も。汗

このように素人が判断するには問題が大きくて、感情も関わってくるので国民投票って難しいなあと思うのです。
かといって、事情をよく勉強した政治家が決めたとしても、今度は「政治家が勝手に決めた」と文句が出るかもしれないですよね。
たくさんの人の意見をまとめるのは難しくて、増してそれぞれ事情の違う全員がハッピーになることはできないだろうしねぇ。うーん。

そして、こんなに大事なことを、こんなにわずかな差(離脱51.9%、残留48.1%)で決めちゃっていいのかというのも疑問。
過半数ではなくて、せめて3分の2以上とか、70%とかにしてもよさそうなのに。
ほんのわずかな差だったからこそ、残留派は諦めきれずにいると思うし、変な対立心を生んでいる気がします。

それから国民投票の難しさは、直接投票するだけに、人の感情に大きく影響を与える点もあると思うのです。
私はこれが一番怖い。

離脱が決まったとたん、EU国からやってきている人たちはこの国での自分の滞在が心配になったようです。
今はEUの決まりでビザなしで制限なく働いて住むことができるけれども、英国がEUを離れれば労働ビザ、滞在ビザが必要になるかもしれません。
これまで一生懸命働いていた人ほど、拒絶された、裏切られた気持ちになったようで、いつも明るいご近所さんもガックリ肩を落としていて、かける言葉が見つかりませんでした。

この不安な気持ちは外国人全体にも飛び火して、英国にいるのが居心地悪いと感じるEU外の外国人まで出てきたようです。
知り合いのイギリス人を見て、あの人は離脱に投票したのかしら、ということは外国人が嫌いなのかしら、ということは私のことも嫌いなのかしら、ということは・・・などとつい考えてしまうこともあるそうで。
いやいや、そうじゃないよ、離脱イコール外国人嫌いじゃないでしょ、と言っても、一度不安になった気持ちはなかなかおさまらないようなのです。

そしてまたこんな大切な時期に、便乗して実際にポーランド人や東欧人に嫌がらせをする人も出ています。
もう、もう、おバカさん!
こんな時にややこしいこと、するなー!
ただでさえ外国人は不安なのに、ますます居づらくなっちゃうじゃないの! ますます心を閉じちゃうじゃないの!
(「ポーランド人はもういらない!」というカードを家の前に置いたりした、というニュースはこちら(英語です))

どこの国にも外国人嫌いな人はいるし、この国にも確かにいると思います。
でも一般にはこの国は外国人に寛大で、外国人が住みやすい国だと思うんです。
1960年代には国自らが元植民地であるコモンウェルスの国から労働者を招待した経緯もあって、英国人は全体に外国人に慣れているし、英語が下手でもほとんどの場合は根気よく待ってくれるし、移民の人たちにも気前よく無料の医療サービスを受けさせていました(だから財政が苦しくなったのですが)。
少なくとも自分の経験から、私は30年間そう信じてきました(ずっと住んでいたわけではありませんが)。

今回問題になったのはとにかくEUからの移民の数が多すぎたことだと思うんです。
いろいろ調べていたら、2004年にEUが拡大した時に、英国はEU国からの移民の数を制限しなかったんだそう(制限を設けた国もあったそう)。
そこが、ちょっとした間違いの始まりだったのでは?
こんなにたくさん人が来るとは思わなかったでしょうけどね。

でも、とつい考えてしまいます。
それとも、外国人に寛大と思っていたのは私の夢で、本当はそうじゃなかったのかな?と。
私自身も自分の経験や感覚を疑いそうになっているのです。
そういえば、世界のどこでも英語が通じて当たり前と思っているって読んだことあるなあ。
尊大な人たちなんだろうか・・・。

こうやって人の気持ちに不安や疑いが生まれ、人と人の間に亀裂が入っていくのが私は一番怖いのです。
せっかくこれまで仲良くやってたのに!
国民投票は難しい、そしてKeep Calm and Carry On_e0114020_06100716.jpg
(そんな私ですが、絶賛風邪ひき中。
日曜日はお薬を飲むためにベッドで朝ごはんでした)

などと、国民投票の結果が出てから数日、本当に動揺して、やたらにニュースを見たり、人の意見を聞いたり、いろいろなことを考えたりしました。
感情的に投票した人や、投票後の離脱派リーダーの頼りなさを見た人が後悔していると聞いて、国民投票をやり直そうという署名に参加してみたりもしました(これは居住者なら署名できたのです)。

でも今では少し落ち着き、もし国民投票のやり直しがなければ、この結果を受け入れて、前に進むしかないなと腹をくくりました。
この国の戦争中のスローガンで、私も座右の銘にしているKeep Calm and Carry On(落ち着いて、日々の生活を続けよ)の精神です。
この国が教えてくれた、とてもこの国らしい言葉。

これまでEUを離脱した国はないので、これから何が起きるかはまったくわかりません。
しかも離脱派のリーダーたちは、まさか離脱になると思っていなかったのか、なんだか逃げ腰で頼りない。
でも、なるようになる!
あ、それにまだ絶対に離脱するって決まったわけでもないし!笑
(これから新たに首相を選んで、それから2年の交渉・移行期間があるのです)

ただこれからは、もっとよく社会を見て、情報を得て、よく自分で考えて、自分の意見を持とうと思います。
そんなことしても選挙権がないので国に対して何も言うことはできないのですが、せめて自分の意見を持っていれば、例えばやっぱり日本に帰ろうとか、この国でこうしていこうとか、自分のことを自分で決められるでしょうから。

というわけで、これからはもっとよく勉強し、必要なら何かしながら今後の英国を見守っていきたいと思います。
この国のことが好きなので、本当に私が思っていた国だったのかどうかもよく確かめたいし、よい方向に進んでいくことを心から願っています。

そして何よりも、家族や友だちや、これまで出会い、これから出会う世界中のすてきな人たちを大切にしていきたいと思います。
ハッピーなのがいいですよね♪

Since the referendum over EU, I have been in shock, but now I feel all I can do is “Keep Calm and Carry On,” the concept this country taught me and I still treasure.
I am still very sad that this referendum has caused such huge stirs in people’s feelings -it’s not that the UK doesn’t like foreigners (I hope), but it has caused lots of different interpretations and some people are really hurt. SAD!

I will definitely keep en eye on what’s going on in this country, the very country I have been in love with for over 30 years! :)


*****************************************
今日も読んでくださってありがとうございます。

ブログランキングに参加しています。
下の2つのバナーをクリックして票を入れていただけると、とても励みになります!

応援どうもありがとうございます♪




人気ブログランキングへ

Commented by 海岸通り(ヨモギ) at 2016-06-28 18:14 x
こんにちは♪
風邪を引かれてしまったのですね。どうぞお大事に、
早く治りますように!
EU離脱の衝撃は、日本でもまだ続いておりますが、
一時1ドル99円まで高騰した円も、102円ぐらいに落ち着いたようで、
株価も、下がってはいるけれど底なしに下がり続けるなんてことはなさそうな感じ。。
日本政府は、今後も全力で支援をおこなって、
国内の経済に悪影響が出るのを最小限にする努力をしたいと
言ってます。
円高で困る中小企業にも、なんらかの支援がありそうです。

Londonsmaileさんが書かれていらっしゃるように、「離脱」に投票した方のなかには、「これほど大変な事態になるなんて考えなかった。後悔している」「離脱派のリーダーもあとのことはなんにも考えてなかったらしい。」とか、離脱の大変さにびっくりされてる方が多い、と日本のニュースでも言われています。 「離脱」と「後悔」を組み合わせた造語まで、できたそうですね?
こちらでは、メルケル首相とフランスの首相が「いまは離脱に向けての交渉は一切しない」と言い切ってるそうですね。
つまり、新首相ができればその人となら交渉をするってことでしょうネ。
その新首相を押す選挙、候補の名乗りの締め切りが29日だというのは、本当でしょうか?

いつもは主婦向けのお笑い系の内容が多い昼間のワイドショーも、今回のニュースをまじめに解説するものが多くなってます。 それだけ、私たち日本の庶民の日常生活にも、影響はまぬかれないということなのですネ(ブルブル。。。)

来月の今ごろには、この事態はどうなっているのかしらと心配でもあり、「でも、世界が知恵を絞って、悪影響を最小限にする努力を、きっとするに違いない」と思うことにいたします。
だって、わたしたちでは手も足もでませんものね。

(ハンドルネームは、もともと「ヨモギ」なのですが、同じネームのかたがいろいろなところにいらっしゃるようなので、「海岸通り」に変えたのですが、うっかり、またヨモギと書いてしまって。。。せんだってのコメントは私です(*^^*))
お風邪、くれぐれもお大事に。

Commented by londonsmile at 2016-06-28 18:45
*海岸通りさん*
これからはそうお呼びすればいいでしょうか?よろしくお願いします♪

コメントありがとうございます。為替は少し落ち着いたようですね。今のところ日本に直接的な影響はないと言われていますが、様々な形で影響が出ますもんね。日本も大変なことにならないよう願っています。

離脱と後悔を組み合わせた言葉ってRegrexitでしょうか。ツイッターのハッシュタグがあるようですね。後悔している人がいる一方、結果に大満足で涙まで浮かべている人もいるので、やっぱりわからないものですね。

このBBCの記事によれば、新首相の候補は29日から受付を開始して、30日の正午に締め切るようです。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-36640889
離脱派のリーダーは今のところ逃げ腰な印象なのですが、さて誰が首相になることやら。

何せEUを離脱した国はこれまでないので、前例がなく、なんとも言えませんよね。全員がハッピーになるのは難しいとしても、人の気持ちを傷付けないように話を進めてほしいと思っています。

風邪のこと、ありがとうございます。今は症状が出始めたので体調自体は楽になりました♪日本も鬱陶しい季節だと思いますので、海岸通りさんもご自愛くださいね。
Commented by T子 at 2016-06-29 09:50 x
国民投票の結果には驚きましたねぇ。
私も30年ほど前からイギリスが好きで何度も通いましたが、イギリス人は(アメリカとは違って)私のたどたどしい英語でも嫌な顔をせず、行き当たりばったりのB&Bに泊まる旅でも本当にいつも温かく迎えてくれる方ばかりでした。
昔は、こんなに見ず知らずの旅行者を信じても良いの?と思えるぐらいに、たった1,2泊の旅行者の私たちに家の鍵を預けてお出かけされたり、信じられないほど鷹揚な国民性でした。でも、それが変わってきたと感じたのは10年余り前から。町の中で移民の方が目につくようになったのと同じ時期かもしれません。
景気が悪く失業者が多かったけど、武士は食わねど高楊枝、みたいなイギリスを愛していました。いつまでもそうはいかないことはわかりますが、心の余裕をなくしたような今のイギリスを見て寂しい思いがします。
Keep Calm Carry On いろんな所で見かけますね。7月の終りからまた行きますから、今度はそのマグでも買って来ようかな。
Commented by ひつじ at 2016-06-29 10:05 x
おはようございます。お風邪気をつけてくださいね。
今回の離脱問題も、イギリスでは本当のところどうなんだろうかと読ませて貰っていました。
心配されてる外国人への心配その他も、全く、日本と同じだと思いました。
結構イギリス人と日本人は似ていると、昔思いました。
日本人がもう少し、合理的な考えと、ハッキリ発言したら、イギリス人にちかいのではと!
今東京は都知事の成り手がないと、。。。
オリンピックに向けて、不安要素がいっぱいです。
ほうどうも、どこまでが真実なのか不透明です。Keep Calm and Carry Onの精神は今の日本にそのまんま
使わせてほしい言葉だと思います。
そのような言葉さえないのですから........。好きだからと言っても、何でも100%はあり得ませんよね。
でもとても興味深く読ませてもらっています。
やっぱり、好きな国ですので、昔はとても親切にしてくださった人も、おおかったのです。
更新を楽しみにしています。
Commented by londonsmile at 2016-06-29 18:06
*T子さん*
やっぱり驚かれましたか!
そうそう、イギリス人って外国人の英語にも我慢強いですよねー。50年代、60年代にコモンウェルスの国から移民をたくさん受け入れたからかなーと思っていたのですが、さすがにEU国からの移民は数が多かったせいか、ちょっと様子が違ったのかもしれません。
そうそう、まさに「武士は食わねと高楊枝」という感じでしたよね。私は最初に滞在したのが引退したご老人の多い小さな海辺の町だったので、とくにそう感じたのかもしれませんが、その古き良き英国という第一印象がいつまでも頭から離れないのです。
離脱イコール人種差別ではないはずだったのに、国民投票の結果に便乗してか、今は各地で不愉快なことが起きており、このまま人種差別が広がらないことを祈るばかりです。
7月にイギリス、いらっしゃるんですね! 少し前までKeep Calm and Carry Onのグッズが流行っていたのですが、今もあると思います。ぜひ探してみてくださいね! 楽しいご滞在を♪
Commented by londonsmile at 2016-06-29 18:12
*ひつじさん*
風邪の事、ありがとうございます。おかげさまで最悪の時期は脱したようです。
私もイギリス人と日本人は似ているところが多いと思いますが、大きく違うのは他の人種を広く受け入れているところだと思うのです。とくにロンドンは外国人も多く、多様性が魅力だったと思うのですが、国民投票の結果に便乗して起きている人種差別的な事件を見ていると、とても憂鬱な気分になってしまいます。
私は日本ももちろん大好きですが、この国のことも大好きなので、これからの成り行きをしっかり見守りたいと思います。
日本もオリンピックなど、いろいろ大変そうですよね。Keep Calm and Carry Onの気持ちでお互い頑張りましょう♪
by londonsmile | 2016-06-28 17:32 | 思ったこと | Trackback | Comments(6)

londonsmile、ロンスマことラッシャー貴子です。翻訳をしています。元気な英国人夫とのロンドン生活も早いもので17年目。20歳の時に好きになったイギリスが今も大好き。英国内旅行や日々のいろいろを綴っています。お仕事の依頼や写真掲載のご連絡は非公開コメントでお願いします。無断掲載はご遠慮ください。


by londonsmile